エンドセリンシステム

エンドセリン系は、エンドセリンペプチド類およびそれらの受容体から構成され、体の様々な生理的機能に関係、また病気の発現にも関与しています。エンドセリンは、血管の内皮細胞から強力な血管収縮物質として発見されました。内皮とは、血管、リンパ管、心臓など管腔に面した一層の細胞層で、人の体内の全ての内皮をあわせると、その重量は約1.5kgで、テニスコート4面分ほどの面積になります。
エンドセリン(ET)ペプチドには、ET-1、ET-2およびET-3の3種類が存在します。 ET-1は21個のアミノ酸から成り1、ET-2およびET-3は、ET-1のアミノ酸の2ヵ所および6ヵ所が別のアミノ酸に置き換わったペプチドです。ET-1はこれまでに知られている最も強力な血管収縮物質であり、心血管の強力な収縮と心臓への血液供給阻害作用により心筋梗塞を引き起こす蛇毒のSarafotoxinと類似した化学構造を有しています。エンドセリンは、肺、腎臓、脳、下垂体、末梢の内分泌組織、胎盤など、体の様々な組織で産生されますが2, 3, 4、ET-1は特に血管の内皮で非常に多く産生されます1, 5。

エンドセリンシステム

産生されたエンドセリンは、受容体に結合することにより、その機能を発現します。エンドセリンの受容体は2種類(ETAとETB)あり、両者の構造は非常に類似していますが、3種類のエンドセリンに対する親和性は異なります。ETA受容体は、ET-1やET-2に対して高い親和性を示します。主に平滑筋細胞に存在し、血管収縮および細胞増殖に関係します。一方、ETB受容体は、ET-1、ET-2、ET-3のいずれに対しても類似した親和性を持ち、内皮表面に発現しているとともに、脳および腎臓内の線維芽細胞や平滑筋細胞にも存在します。

エンドセリンは、体の様々な器官において、からだを正常に機能させる役割を担う一方で、病気の進展に関与することが知られています6。

  • 血管壁では、血管収縮を正常に保つ働きをしています。一方、高血圧、アテローム性動脈硬化症およびクモ膜下出血後の血管攣縮の進展に関与すると考えられています。
  • 心臓では、心臓の収縮力と収縮率に影響します。一方、うっ血性心不全における心肥大およびリモデリングを進展させると考えられています。
  • 肺では、気道および血管が正常に働くように調整しています。一方、肺高血圧症の進展に関与すると考えられています。
  • 腎臓では、水とナトリウムの排泄、および酸-塩基バランスを調節する働きをしています。一方、急性ならびに慢性腎不全に関与していると考えられています。
  • 脳では、循環中枢や呼吸中枢を調節しており、またホルモン放出をコントロールしています。

エンドセリン系による血管収縮の調節
 
血管の収縮は、循環している血管拡張物質と血管収縮物質の相互関係により正常に調節されています。健康な人のET-1濃度は非常に低く、血管収縮を適切なレベルに維持するのに役立っています。しかしET-1濃度が高くなると、血管収縮が強まり、肺血管の肥厚が生じます。その結果、肺血流量が減少し、呼吸困難や、右心室肥大などの心臓障害が起こります。さらに、このような病気の状態では、平骨筋細胞のETAとETB受容体が増加しています(受容体のアップレギュレーション)。 ET-1は、肺血管内で特に強い血管収縮物質であり、肺動脈性肺高血圧症(PAH)の発症や進展に関与しています。実際、PAH患者では血漿中と組織中のET-1濃度が上昇しており、その濃度はPAHの重症度に比例しています。特に、PAHのうち原発性肺高血圧症(PPH)では顕著です。
 
<参考文献>

  1. Yanagisawa M, Kurihara H, Kimura S, et al. A novel potent vasoconstrictor peptide produced by vascular endothelial cells. Nature 1988;332(6163):411-415. 
  2. Watson S & Arkinstall S. Endothelin in the G-protein linked receptor facts book 1994.; pp 11. London. Academic Press. 
  3. Stojilkovic S & Katt KJ. Neuroendocrine actions of endothelins. Trends Pharmacol Sci 1992; 13: 385-391. 
  4. Hemsen A. Biochemical and functional characterization of endothelin peptides with special reference to vascular effects. Acta Physiol Scand Suppl. 1991;602: 1-61.
  5. Yanagisawa M. The endothelin system. A new target for therapeutic intervention. Circulation. 1994; 89: 1320-1322.
  6. Kedzierski RM & Yanagisawa M. Endothelin system: the double-edged sword in health and disease. Annu Rev Pharmacol Toxicol 2001; 41:851-876.